黒井千次 『たまらん坂』(福武書店)

武蔵野を舞台とした短編集。もう少し連作要素があるのだと思っていたのだけれど、武蔵野を舞台とした中年男の淡いロマンスということ以外さしたる共通点はない。表題作の『たまらん坂』のみ地名探求譚のようになっており、RCサセクションの『多摩蘭坂』が出てきたりして、これが一番面白かった。逆にいうと他はあまり面白くなかった。『たまらん坂』だけ掲載誌も違って*1、表題作となっているのに他の六作と趣を異にしているのはちょっとどうかと思わないでもない。

*1:他の六作は福武書店の『海燕』、『たまらん坂』は中央公論社の『海』。