藤枝静男 『犬の血』(文藝春秋新社)

藤枝静男処女小説集。収録作のうち、『イペリット眼』は『凶徒津田三蔵』に、『文平と卓と僕』『家族歴』『路』の三編は『ヤゴの分際』に収録されているので、未読だったのは『犬の血』『痩我慢の説』『龍の昇天と河童の墜落』の三編のみ。この時期の作品にはまだ『空気頭』以降の私小説を突き抜けた印象はなく、ひどくまじめに書かれている。しかし藤枝静男の要素はすでに出揃っていて、初期のころにはなかったと思っていたユーモアも『龍の昇天と河童の墜落』のなかに色濃く出ているし、『犬の血』には、『凶徒津田三蔵』を経て『或る年の冬 或る年の夏』へ至るものと通底するものが感じられた。