天沢退二郎 『乙姫様』(青土社)

詩集なのだけど幻想的な掌編集として読んでしまう。小説的な散文詩と詩的な小説の差はまるで曖昧としていて僕にはほとんど区別がつかない。小説家が書いていれば小説で、詩人が書いていれば詩ということなのだろうか。
廃船になった潜水艦の地下街にマスクをした男たちがズラリとならぶ「マスクとジョッキ」や、不眠の果てに透明な柱体になってしまう「不眠ホテル」などどれも面白い。

松浦寿輝の小説が立花種久の小説によく似ているのに首をひねったことがあるのだけれど、この詩集を読む限りでは、天沢退二郎に小説的な展開を多少付け加えると立花種久になり、立花種久通俗的要素(わかりやすさとかエロスとか)を加えると松浦寿輝になるとの印象を受ける。立花種久松浦寿輝も共に出発は詩人であって、共に天沢退二郎(というか現代詩?)の影響があってもおかしくはないわけで、さらに遡れば、萩原朔太郎ボードレールマラルメといったところにたどり着くんだろうか。