後藤明生 『四十歳のオブローモフ』(文藝春秋)

新聞連載を元にした後藤明生の初長編。オブローモフとはゴンチャロフの小説『オブローモフ』の主人公のことで、教養はあるが怠惰なインテリゲンチャのことなのだそうだ。
雑多なまでに多くのことが語られるのだけれど、それらはゆるやかながら重層的に折り重なっていて、軽妙に行きつ戻りつして語られる様はまさにアミダクジ式で、とりわけ、福岡への講演旅行とシベリア旅行の回想の折り重なり具合は、連想されるままに即興のような自由さで書かれていながら絶妙な具合に絡み合っていて、大変楽しい。
後記に「作中しばしば、二葉亭の『平凡』に学ぶところ大であった。あの自由自在さには、もっと学んでよいのではないか」とあるのだけれど、たまたま昨年そのストレートな題名を面白く思い買っていたりしたので近いうちに読んでみようと思う。そういえば『挟み撃ち』を読んでいた時も作中で触れられている小説をその都度読み返してみたりして読み終えるのに随分と時間がかかったりしたのだった。