黒井千次 『一日 夢の柵』(講談社)

日常のなかにすっと入り込んでしまった違和をなにげなく取り出してみせる手腕は見事なもので、判で押したような当たり前の日常なんてものはないのだという思いを強くする。日常に紛れ込んだ違和により、どこか齟齬をきたしていることにある日気づいてはっと…

本日の読書

芦辺拓 『グラン・ギニョール城』(原書房) 黒井千次 『隣家』『丸の内』『記録』『一日』(『一日 夢の柵』講談社)

芦辺拓 『グラン・ギニョール城』(原書房)

あとがきにて作者本人が、安易なメタミステリの流行に疑問を呈しているにも関わらず、安易なメタミステリ以外の何物でもない仕上がり具合。細かいことをあげていけば切りがないが、第二の殺人のトリックが物理的に成立不可能で、第三のトリックも仮に成立し…

ここ数日の読書

川端康成 『片腕』『散りぬるを』(『眠れる美女』新潮文庫) 黒井千次 『夢の柵』『影の家』『眼』『浅いつきあい』『電車の中で』(『一日 夢の柵』講談社)

川端康成 『眠れる美女』(新潮文庫)

三島由紀夫が「観念的淫蕩の極致」と呼ぶ『眠れる美女』も良かったのだけれど、「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と、ポンと片腕を外してしまう『片腕』が大変美味であった。今まで川端康成をほとんど読んだことがなかったのは実に迂闊なことだと思う。

本日の読書

中原昌也 『マリ&フィフィ虐殺ソングブック』(河出書房新社)読了。 川端康成 『眠れる美女』(『眠れる美女』新潮文庫)

中原昌也 『マリ&フィフィ虐殺ソングブック』(河出書房新社)

思っていたより苦手でなく、思っていたより滅茶苦茶でもなく、どれもこれも非常に中途半端なのだけれど、文章自体はしっかりしてるので、その中途半端さを楽しめるようになっているというかなんというか。しかしこういったものを書くのなら賞などとは無縁で…

本日の読書

山田正紀 『神曲法廷』(講談社文庫)読了。 中原昌也 『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』(河出書房新社)少し。

山田正紀 『神曲法廷』(講談社文庫)

ミステリという形式において、探偵の前にくり返し敗北することを運命づけられた犯人役こそ、絶対者に挑み敗れ去る人間自身の象徴ではないか、とずっと思っていた。 人類最初の殺人事件であるカインによるアベル殺しで、探偵役を務めるのは神自身であるのだけ…

藤枝静男 『異床同夢』(河出書房新社)

『武井衛生二等兵の証言』『異床同夢』の二作は、終戦直後、ソ連に武装解除を受けたあと、部隊から脱走し、家族のもとに逃げ延びた武井衛生二等兵が語り手となっていて、狭義の「私小説」ではなく、聞き手として藤枝静男本人が登場するわけでもない。それな…

本日の読書

山田正紀 『神曲法廷』(講談社文庫)349/656。

ここ数日の読書

藤枝静男 『盆切り』『一枚の油絵』『しもやけ・あかぎれ・ひび・飛行機』『疎遠の友』『聖ヨハネ教会堂』『プラハの案内人』(『異床同夢』河出書房新社/読了)

阿部昭 『千年/あの夏』(講談社文芸文庫)

自分が父親になったところで、自分の父親になれるわけでもなく、自分に子供が出来たところで、その子供は、かつて子供であったころの自分と同一ではない。ふた組の親子を通して浮かび上がってくるのは内向していく自分自身で、読み進めながら、初めて「内向…

ここ数日の読書

阿部昭 『贈り物』(『千年/あの夏』講談社文芸文庫/読了) 藤枝静男 『武井衛生二等兵の証言』『異床同夢』(『異床同夢』河出書房新社)

ここ数日の読書

山田正紀 『神狩り2 リッパー』(徳間書店) 阿部昭 『父と子の夜』(『千年/あの夏』講談社文芸文庫)

山田正紀 『神狩り2 リッパー』(徳間書店)

火星で発見された古代文字ってのはどうなんったんだろう。前作の主人公、島津圭助もしぶとく生き残ってるし、もしかしたら『神狩り3』があるのかもしれない。 ここに出てくる神の概念は士郎正宗が『攻殻機動隊』(の欄外)で書いていた神の概念と似ているよ…

今週の読書

阿部昭 『沼』『子供の墓』(『千年/あの夏』講談社文芸文庫) 金井美恵子 『恋愛太平記 1』(集英社文庫)少し。

ここ数日の読書

阿部昭 『あの夏』『千年』『桃』(『あの夏/千年』講談社文芸文庫) 内田百間 『枇杷の葉』(『サラサーテの盤』六興出版)

ここ数日の読書

喜国雅彦 『本棚探偵の冒険』(双葉文庫) 内田百間 『とほぼえ』(『サラサーテの盤』六興出版)

喜国雅彦 『本棚探偵の冒険』(双葉文庫)

初版に著者検印がついたり凝った造本で話題になったこの本を文庫で買うことにどれほど意義があるのか、ともし仮に問われれば「僕は読めればそれでいいのです」と答えることになる。積ん読本が随分と溜まってきていても、僕はコレクターではなくて、あくまで…

本日の読書

野坂昭如 『東京小説 ルーツ篇』『夢の島篇』『私篇』『山椒媼』(『東京小説』講談社文芸文庫/読了)

野坂昭如 『東京小説』(講談社文芸文庫)

東京を舞台とした連作短編。迂遠的な文章とはうらはらにどれもオチがきっちりと着いていて、これはショートショートの落とし方じゃないのかなーと思うのがいくつかあり、多少不満に思いつつも楽しく読めた。一見破天荒で豪放磊落なようでいて神経質な巷説に…

本日の読書

野坂昭如 『東京小説 相姦篇』『尉と姥篇』『隅田川篇』『血縁篇』(『東京小説』講談社文芸文庫)

本日の読書

河野多恵子 『半所有者』(『秘事・半所有者』新潮社/読了) 野坂昭如 『東京小説 慈母篇』『友情篇』『ゼロ世代篇』(『東京小説』講談社文芸文庫)

河野多恵子 『半所有者』(『秘事・半所有者』新潮社)

『秘事』が、至極真っ当に感動的だったのに対し、こちらは真っ向ストレートな屍姦もの。勝手な想像なのだが、編集者はこの組み合わせで文庫を出すのに反対をしたのものの、作者本人が「あら、これくらいして当然やないの」などと押し切ったに違いない。『秘…

本日の読書

河野多恵子 『秘事』(『秘事・半所有者』新潮文庫) 野坂昭如 『東京小説 純愛篇』(『東京小説』講談社文芸文庫)

河野多恵子 『秘事』(『秘事・半所有者』新潮文庫)

河野多恵子に対する先入観と、『秘事』というタイトルから、そぞや凄いのだろう、ウヒヒといささか不純な気持ちで読み始めたのだけれど、描かれていたのは幸福な夫婦の物語で、夫は重役まで出世するというのに嫌みなところが少しもなく、平凡な家庭のようで…

本日の読書

河野多恵子 『秘事』(『秘事・半所有者』新潮文庫)248/336 『秘事』は三百ページを越える長編なのに併録されている『半所有者』は二十ページほどの短編であるという何だかバランスの悪い収録具合。 野坂昭如 『東京小説 家庭篇』(『東京小説』講談社文芸…

ここ数日の読書

河野多恵子 『片冷え』『大統領の死』『朱験』『途上』『黒い髪』『來迎の日』(『赤い脣 黒い髪』新潮文庫/読了) 河野多恵子 『秘事』(『秘事・半所有者』新潮文庫)少し。

河野多恵子 『赤い脣 黒い髪』(新潮文庫)

少し奇妙で、少しエロチィックな短編集。河野多恵子はもっとエグいものだとばかり思っていたのでちょっと拍子抜けした。他のは凄そうなんで、おそらく河野多恵子のなかでもライトな部類にはいるのだろう。 地の文ではそうでもないのだけれど、作中の、二十代…