読了

小堀用一朗 『三人の"八高生" 平野謙 本多秋五 藤枝静男』(鷹書房弓プレス)

作者は本多秋五の姉の息子で大学教授なのだが、どうも本を書き慣れていないようで、分量的に本多秋五に関する記述が多いのはそれでいいとして、非常に構成が悪く、年代もあちこち行ったり来たりするし、単純な表記ゆれも多い。しかし色々知らないことも多か…

フォークナー/平石貴樹 新納卓也訳 『響きと怒り(下)』(岩波文庫)

傑作。前衛的な語りの手法と高い物語性が見事に融和していて、ガルシア・マルケスや中上健次の痕跡を見いだせたのも楽しかった。 懇切丁寧な訳注(場面転換表、主要出来事年表、コンプソン家見取り図など盛り沢山)のおかげで難解さがだいぶ緩和されているの…

フォークナー/平石貴樹 新納卓也訳 『響きと怒り(上)』(岩波文庫)

いやー傑作。上巻だけで十分満足してしまい、下巻はもしかしたらまったくの蛇足なんじゃないだろうか、と思えてしまうほどで、下巻を読み始めるのは数日間を開けてからにしようと思う。 最初の頃こそこのベンジーは何歳の頃のベンジーか、といったことがどう…

アイザック・アシモフ/岡部宏之訳 『ファウンデーションと地球(下)』(ハヤカワ文庫)

ファウンデーションと地球〈下〉―銀河帝国興亡史〈5〉 (ハヤカワ文庫SF)作者: アイザックアシモフ,Isaac Asimov,岡部宏之出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1997/08メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 8回この商品を含むブログ (24件) を見る『ファウンデー…

アイザック・アシモフ/岡部宏之訳 『ファウンデーションの彼方へ(下)』(ハヤカワ文庫)

早朝四時に読了。本書で一応完結しているけれど、実質的には『ファウンデーションと地球』へと続いているので、感想はまとめて書こうと思う。ファウンデーションの彼方へ〈下〉―銀河帝国興亡史〈4〉 (ハヤカワ文庫SF)作者: アイザックアシモフ,Isaac Asimov,…

アイザック・アシモフ/岡部宏之訳 『ファウンデーションと地球(上)』(ハヤカワ文庫)

裏表紙に『ファウンデーションの彼方へ』の重大なネタバレがあるので、未読の人は要注意。 ひさしぶりにぶっ続けで本読んでいるのでなんだかとても疲れた。下巻も残り150ページほど。ファウンデーションと地球〈上〉―銀河帝国興亡史〈5〉 (ハヤカワ文庫SF)作…

アイザック・アシモフ/岡部宏之訳 『ファウンデーションの彼方へ(上)』(ハヤカワ文庫)

どこかで旧三部作ほどは面白くないという評判を耳にした気がするのだけれど、取りあえず今のところ全然そんなことはなく、食事を取るのもそこそこに一気呵成に読了。下巻もこれから寝ずに読んでしまうのは間違いない。ファウンデーションの彼方へ〈上〉―銀河…

橋爪大三郎 『はじめての構造主義』(講談社現代新書)

たいへんとってもわかりやすい上におもしろく読めた。 「はじめての」とあるように構造主義の逐次的な解説ではなくて、レヴィ=ストロースがいかに構造主義にたどり着いたかをトレースするような構成になっていて、「構造」とは何かが浮かび上がってきたとこ…

クリストファー・プリースト 『奇術師』(ハヤカワ文庫)

〈プラチナファンタジイ〉 奇術師 (ハヤカワ文庫 FT)作者: クリストファー・プリースト,古沢嘉通出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2004/02/10メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 71回この商品を含むブログ (200件) を見る面白かったです。以下ネタバレ(若…

クリストファー・プリースト 『魔法』(ハヤカワ文庫)

魔法 (ハヤカワ文庫FT)作者: クリストファープリースト,Christopher Priest,古沢嘉通出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2005/01/01メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 63回この商品を含むブログ (88件) を見る面白かったです。以下ネタバレ。

カフカ/長谷川四郎訳 『カフカ傑作短篇集』(福武文庫)

カフカは十年ほど前に『変身』を読んだきりなので、ほとんど初めてのカフカといっていいかもしれない。 カフカといえば「不条理」ということになるのだろうけれど、この短編集から僕が感じたのは「不条理」よりも「ユーモア」で、それもなんだかよくわからな…

マルセル・プルースト/鈴木道彦訳 『失われた時を求めて 1 第一篇 スワン家の方へⅠ』(集英社文庫)

のべ2週間かけて読み終える。これでやっとこさ十三分の一。 もっと過去と現在が複雑に交錯するのかと思っていたのだけれど、それほど複雑さはなく、主に幼年時代のことなので共感することも多く、冗長さもさほど感じなかった。しかし、これから巻が進んで、…

田中小実昌 『ポロポロ』(中公文庫)

田中小実昌はチャンドラーの訳者としてしか知らなかったのだけれど、『ポロポロ』はなんだか凄い、という評判をどこぞで小耳に挟み読んでみたら、なんだか凄かった。 ストーリーらしいストーリーはなく、入隊後五日で中国戦線に連れて行かれ、アメーバ赤痢に…

吉行淳之介 『夕暮まで』(新潮文庫)

初淳之介。吉行淳之介はもっとドロドロとしていると勝手に思っていたのだけれど、意外とサラサラとしていて、川端康成に近いような気がしたりしたのだけれど、川端康成もロクに読んでいないので、この印象が正しいかどうかはわからない。次は作中作があると…

藤枝静男 『犬の血』(文藝春秋新社)

藤枝静男処女小説集。収録作のうち、『イペリット眼』は『凶徒津田三蔵』に、『文平と卓と僕』『家族歴』『路』の三編は『ヤゴの分際』に収録されているので、未読だったのは『犬の血』『痩我慢の説』『龍の昇天と河童の墜落』の三編のみ。この時期の作品に…

竹内薫 茂木健一郎 『脳のからくり』(新潮文庫)

改めて平易に解説されると、「ああ、知っているなぁ」と思うことが大半だったのだけれど、単に知っているのと理解しているのとはまた違うことで、知っていることの多くが、知識として定着していないことに気づかされた。脳のからくり (新潮文庫)作者: 竹内薫…

アンドレ・ジイド/山内義雄訳 『贋金つくり(下)』(新潮文庫)

297頁から始まったので驚いた。下巻ではついに鬼畜エドゥワールがオリヴィエくんを毒牙にかけてしまう。ジョルジュくんも狙われちゃうし、さいごにはベルナールの弟カルーブくんにまで興味を示すのだから、朴念仁のふりしてなかなかそっち方面は如在ないエド…

アンドレ・ジイド/山内義雄訳 『贋金つくり(上)』(新潮文庫)

お昼のメロドラマ的に人物関係が入り組んでいて、思っていたよりずっと通俗的要素が強く、同性愛の気配に満ちていたりした。作中エドゥワールが語る純粋小説はもとから不可能なものとして語られていて、エドゥワールが書こうとしている純粋小説「贋金つくり…

高橋源一郎 『虹の彼方に』(新潮文庫)

単にわかるわからないでいえば、ちらりと読み始めて数ページで頓挫したままの『響きと怒り』より、こちらのほうが断然わからないのではないか、と思いつつ最後まで読むと、なんだかわかったようなつもりにはなって、なんだかよくわからない切実な読後感が残…

筒井康隆 『小説のゆくえ』(中公文庫)

「現代世界と文学のゆくえ」に書かれていることが、ほとんどそのまま『巨船ベラス・レトラス』に書かれいてることだったので驚いた。恐ろしきシンクロニシティ! というのは冗談として、つまり『巨船ベレス・レトラス』は「現代世界と文学のゆくえ」を準拠枠…

北浜邦夫 『ヒトはなぜ、夢を見るのか』(文春新書)

先日読んだ『夢を見る脳』もそうだったのだけれど、夢そのものよりも睡眠に関しての記述のほうが多い。夢に関する研究はさほど進んでいないようで、夢をみる生理的メカニズムはだいぶわかっていても、なぜ夢をみる必要があるのかや、夢の内容に関してはまだ…

筒井康隆 『巨船ベラス・レトラス』(文藝春秋)

珍しく新刊の感想を書くのでこれから読もうという方はご注意を。 作者インタビューによると「ベラス・レトラス」とはスペイン語で文学、あるいは純文学を意味するらしい。帯には「現代日本文学の状況を鋭く衝く戦慄の問題作」とある。なるほど、そうかと思い…

鳥居鎮夫 『夢を見る脳 脳生理学からのアプローチ』(中公新書)

いささか古い本なので最新の研究ではどうなっているのかわからないのだけれど、夢に関して疑問に思っていたことのいくつかが解明した。まだまだ興味はつきないので他にも色々読んでいきたい。

古井由吉 『夜はいま』(福武書店)

読み残していた二編を読了。内向の果てにつるっと世界が裏返るかのような感覚が楽しい。幻想小説を読む感覚で読んでも十分楽しいと思うのだけれどどうだろうか。

鑪幹八郎 『夢分析入門』(創元社)

僕の夢への興味の持ち方は、どちらかといえば脳生理学的な興味の持ち方だと思うのだけれど、フロイトやユングを無視して通りすぎるわけにはいかないだろうから読んでみた。いろいろな夢分析の方法が紹介されているが、どれも決定的でないように思え、フロイ…

ウィリアム・ゴールディング/平井正穂訳 『蠅の王』(集英社文庫)

昨晩寝る前に少し読み始めると、思いのほか面白くて一気呵成に読了してしまう。お陰で寝不足。中学の頃に読んでいれば、確実にトラウマ児童文学の系譜に連なったこと間違いなしなのだけれど、随所に詩的で豊饒な描写があって、陰惨なはずの場面も非常に美し…

北森鴻 『狐罠』(講談社文庫)

裏表紙の説明では骨董の世界を舞台とした古美術ミステリということになっているけれど、ミステリというよりかは贋作を用いた「目利き殺し」のコンゲーム小説で、ミステリとしての要素はさほどなく、いささか無理に殺人事件を絡めたような印象がある。ただ殺…

筒井康隆 『パプリカ』(中央公論社)

数日前に読了。 筒井康隆が「夢」というテーマで書いたわりには実験的要素が少なく、娯楽色が強い。 読む前に勝手に期待していた夢への特別な考察や、新たな解釈といったものは特になく、第一部の夢探偵パプリカによる治療法は、ユング流の夢分析と大差ない…

北森鴻 『花の下にて春死なむ』(講談社文庫)

昨日読了。 適度によく出来た連作短編ミステリ。連作ミステリといっても、舞台と登場人物が共通する程度で、連作としての大きな仕掛けがあるわけではない。軽く読む分にはちょうどいいけれど、じっくり読むとなると軽い不満がいくつも残る。「詰まらん」とか…

筒井康隆 『文学部唯野教授』(同時代ライブラリー)

中学のころに読んでいて、ドタバタ部分は結構憶えていたけれど、講義のところは「現象学」あたりから今読んでもわからなくなってきたくらいだから、当時はチンプンカンプンだったはずで、あるいはもしかしたら読み飛ばしていたのかもしれない。既読感がある…